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最高裁判所第二小法廷 昭和63年(オ)1246号 判決

兵庫県尼崎市南塚口町一丁目二六番二八号

上告人

株式会社 サン・プラス

右代表者代表取締役

照本勝洋

右訴訟代理人弁護士

吉田正夫

植草宏一

吉宗誠一

大阪市中央区平野町三丁目四番六号

被上告人

株式会社 日阪製作所

右代表者代表取締役

谷浦広造

右当事者間の大阪高等裁判所昭和六一年(ネ)第二一七一号実用新案権侵害禁止等請求事件について、同裁判所が昭和六三年五月二一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人吉田正夫、同植草宏一、同吉宗誠一の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はなく、引用の判例の趣旨に抵触するところもない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決を正解しないでこれを論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中島敏次郎 裁判官 藤島昭 裁判官 香川保一 裁判官 木崎良平)

(昭和六三年(オ)第一二四六号 上告人 株式会社サン・プラス)

上告代理人吉田正夫、同植草宏一、同吉宗誠一の上告理由

一、実用新案権の権利範囲(実用新案権の効力が及ぶ範囲)の確定にあたっては、「登録請求の範囲」記載の文字のみに拘泥することなく、考案の性質、目的または説明書および添付図面全般の記載をも勘案して、実質的に考案の要旨を認定すべきである。この判断は、最高裁判所が昭和三九年八月四日(第三小法廷判決昭和三七年(オ)第八七一号、民集一八巻七号一三九一頁、民集一八巻七号一三九一頁)に明らかにして以降変更されていない。

ところで、本件事件においては、熱湯をタンク内に垂直方向及び水平方向に噴出吸引(流出入)させて交叉させ攪拌混合を生じさせる作用効果(及びこの作用効果を発生させる構造)が本件実用新案権の権利範囲か否かが争点となっている。

この点に関して原判決は、「訂正後の本件考案においても熱湯をタンク内に垂直方向及び水平方向に噴出吸引(流出入)させて交叉させ攪拌混合を生じさせることは右明細書に開示されていたとは言えず」としている。すなわち原判決は訂正明細書に「熱湯をタンク内に垂直方向及び水平方向に噴出吸引(流出入)させて交叉させ攪拌混合を生じさせる」という文字がないから開示されていないと言っている(文字のみに拘泥している。)わけである。

さて、本件実用新案権の権利範囲についても前記最高裁判例が言うように「登録請求の範囲記載の文字のみに拘泥することなく、考案の性質、目的または説明書および添付図面全般の記載を考案して、実質的に勘案の要旨を認定すべき」ことになる。

本件考案は別紙公告のとおり訂正されているのでこの訂正明細書を前提に前記「交叉による攪拌混合」が本件実用新案権の権利範囲に入るか否かをみることになるが次のとおり前記「交叉による攪拌混合」が本件実用新案権の権利範囲に入ることは明らかである。

すなわち、訂正明細書の実用新案登録請求の範囲では

〈1〉 高温高圧熱湯タンク1内の熱湯を攪拌しながら食品を調理、殺菌する装置において、

〈2〉 タンク1内上部及び側部であってタンク1の内壁面長手方向に向けて熱湯噴出管3、3'を夫々取り付けると共に前記側部に取り付けた熱湯噴出管3に対抗する側部であってタンク1の内壁面長手方向に熱湯吸引管5を取り付け、更にタンク1内底部に熱湯吸引管5'を取り付けると共に、

〈3〉 熱湯噴出管3、3'及び熱湯吸引管5、5'には多数の噴出孔4……及び吸引孔6……を夫々窄孔し、

〈4〉 タンク1外の循環ポンプ7と前記熱湯噴出管3、3'及び熱湯吸引管5、5'を循環パイプ8、9、10、11にて結び、タンク1内の熱湯を均一に攪拌することができるように更正した加圧熱湯を利用した食品の調理、殺菌装置。

と記載されており右〈2〉から明らかなようにタンク内において熱湯噴出管3、3'が上部及び側部に各一づつ、熱湯吸引管5、5'は3、3'に対応して各一づつ底部及び反対側の側部に取り付けられることになるので、右〈4〉のとおり熱湯を循環ポンプでタンク内に循環させるとタンク内で熱湯が交叉して攪拌混合する作用効果が発生することは明らかであるから、(右〈1〉乃至〈4〉の構成によれば熱湯が交叉し攪拌混合が生じることは避けられない。)実用新案登録請求範囲の中に「交叉による攪拌混合」という文字がなくても「交叉による混合攪拌」を本件考案の作用効果と認定すべきである。しかるに原判決が安易に「交叉による攪拌混合」という文字が明細書にないから「交叉による攪拌混合」が本件考案の明細書に開示されていたとはいえないとするのは、前記最高裁判例にも反するばかりでなく、審理不尽、理由不備の違法をおかしたものといわざるを得ない。(民事訴訟法第三九四条、第三九五条一項六号)

二、第一審判決においては「熱湯の流れの十文字交叉」という文字が明細書に記載されていない本件事件において熱湯噴出管と熱湯吸引管の取り付け位置の限定がないので熱湯の流れの十文字交叉を本件考案の作用効果として認めることができないとしている。すなわち、明細書に「熱湯の流れの十文字交叉」という作用効果についての記載がなかったため(記載があれば争点にはならない)、前記最高裁判例に従い、「考案の性質、目的または説明書及び添付図面全般の記載をも勘案して実質的に考案の要旨を認定」すべく、熱湯噴出管、熱湯吸引管の取付け位置の検討に入ったわけである。そして取付け位置の限定がないから「熱湯の流れの十文字交叉」という作用効果を本件考案の作用効果の一つとして認定できないという結論を出したのである。

上告人は当然「熱湯の流れの十文字交叉」が生じるように熱湯噴出管、熱湯吸引管をタンク内に取り付けられたもの(訂正明細書記載の訂正後の考案)も本件考案の範囲に入るものと考えていたため、訂正明細書記載のとおり実用新案登録請求の範囲に減縮及び明瞭でない記載の釈明を行ったものである。(熱湯吸引管、熱湯吸引管の取付位置が限定され権利範囲の減縮にはなるが「熱湯の交叉による攪拌混合」が本件考案の作用効果であることを裁判所に認識してもらうためには已むを得ないと判断してとった措置である。)

原判決は、「熱湯の流れの十文字交叉」という文字や「熱湯の交叉による攪拌混合」という文字がないことは当然の前提として熱湯噴出管、熱湯吸引管の取付位置の限定があるか否かによって当該作用効果の有無を決定した第一審判決の経過(第一審判決は「熱湯の交叉による攪拌混合」という文字がなくともこの作用効果は熱湯噴出管、熱湯吸引管の取付位置の限定によって認定できることを前提としてなされた。)を全く無視するもので、漫然と原判決の理由説示し引用する原判決は審理不尽、理由齟齬、又は理由不備の違法があると言わざるを得ない。(民事訴訟法第三九四条、第三九五条一項六号)

三、右の点についてはむしろ被上告人の方がある意味で正しい認識をもっていたと言うべきである。

原判決の事実の四、被控訴人の主張3に『控訴人の訂正審判の請求は、実用新案登録請求の範囲を実施例に限定する減縮をなすものではなく、反対に、控訴人主張の「タンク内において、加熱用熱湯を上から下への方向及び左から右または右から左への方向で噴出吸引し、流れを交叉せる」という作用効果を新たに本件実用新案の技術的範囲に取り込もうとするものであって。実質上実用新案登録請求の範囲を拡張するものであるから、とうてい認められるものではない。』と適示されているが、控訴人と反対の立場の被控訴人が正しく認識しているとおり、訂正明細書は明らかに「タンク内において、加熱用熱湯を上から下への方向及び左から右または右から左への方向で噴出吸引し、流れを交叉させる」という作用効果を開示するものである。

この点について被上告人は右のとおり自白しているのである。にもかかわらず、原判決が「交叉による攪拌混合」訂正明細書に開示されておらず、本件考案の作用効果でないとするのは審理不尽、理由齟齬又は理由不備の違法があると言うべきである。(民事訴訟法第三九四条、第三九五条一項六号)

四、原判決は「イ号物件においては、本件考案とは異り、上及び左(又は右)から、各熱湯は、攪拌混合を積極的に発生させる乱流としてではなく、これを発生させまいとする層流状の流水となって提供されるのであり、各熱湯の流れは、長時間の経過により多少混じることはあっても、本件考案と比較すると格段に少なく、高温高圧調理殺菌装置において、このような層流状の熱湯を流入させて攪拌混合を起こさせまいとする技術思想は、本件考案はもとより、先行技術思想にも存在しなかった独特のものである。」と言い、「イ号物件では、上方から下方への流れと左(又は右)から右(又は左)への流れは、ともに広い巣板の全面から内部に流入し相互に影響し合っており、両巣板の隣接した孔から流入する熱湯の流れは、流入後すぐに出合い接触しながら出口の巣板まで向かうのであるが、それより内側(隣接した点から離れた位置)の流水は、他の流水と衝突することはないまま出口から流出するのであり、イ号物件においては、控訴人が主張するような上からの熱湯と右(又は左)からの熱湯がタンク中央で交叉、衝突するという現象は起こらない事実が認められる。」とするがこれは、(被上告人も成立を認めている)甲第三〇号証(見解書)で東京工業大学助教授(工学博士 専門装置内流体工学)梶内俊夫氏が専門的立場から述べた見解と全く異なるものである。

すなわち、右見解書で梶内助教授は検甲第二号証のビデオテープを見てサンプラス模型と日阪模型の各タンク内の液の交叉(衝突、合流)と新たな乱流構造を呈するという原理が同一という見解を出しているばかりでなく、本件実用新案(甲第二号証公報記載のもの)とイ号物件(第一審判決記載のもの)とを比較し、各タンク内の水の挙動は、上からの流れと側方からの流れが衝突し、合流し、新たな乱流構造を発生させるという原則において同一とする見解を出し(甲第三〇号証一一頁)さらにイ号物件において仮りに巣板によって上からの流れと横からの流れが整流されていたとしても、実機で一分毎にタンク内の液を入れ替える流量というのはかなり大きく、整流後が層流であったとしても、すぐ乱流状態となり、上方、右方からの流れは衝突、合流し、二次的な乱流状態に入るもの上推測できるとしているのである。

原判決は採用された専門家による見解書甲第三〇号証と異なる認定をしているが検甲第二号証(ビデオテープ)の日阪模型の作動はイ号物件の本来の技術思想に反すると言うだけで甲第三〇号証の書証を排斥してその記載と相入れない事実を認定することを首肯するにたる理由、根拠を何ら示しておらず、審理不尽、理由不備の違法があると言わざるを得ない。(逆にイ号物件の構造で果して巣板全面から均一に層流状で巣板に囲まれた内部に流入させる効果がでるのか何ら証拠はない。)(民事訴訟法第三九四条、第三九五条一項六号)

五、原判決は「ましてそのために必要とするタンクの上方及び左(又は右)の両方に位置する管(円筒管)に形成される孔を管の長軸方向に並行でタンクの中心に対向する位置に一列に配列すること等は全く開示されていない。

仮に多数の孔を管の周囲に万遍なく形成した管を上方及び左(又は右)の両方に配置したにせよ、流入する熱湯は、四方に噴出し、控訴人主張のように垂直方向の流れと水平方向の流れがタンク中央で衝突するという現象は認められないのである。」とするが、明細書(訂正前のものも訂正後のものも)図面第2図の「4、6」に明らかなように管の孔は水平及び垂直の方向に噴出、吸引されるように形成されているのである。逆に明細書において水平及び垂直方向以外の方向の噴出、吸引を行う位置に孔を形成するように孔の配列を限定していることも全くないのである。

原判決は審理不尽、理由不備の違法がある。(民事訴訟法第三九四条、第三九五条一項六号)

またそもそもこの点に関する主張を被上告人は一審以来一切しておらず、原判決は当事者の主張せざる事項について判断を行ったもので違法と言わざるを得ない。

六(一)原判決は、イ号物件の三日月部分が本件考案の「管」に該当しないという。

管とは狭義の字義からは「細長く独立したもの」であるが、技術的な概念では、「流体を流すもの」であり、その形状、形態は千差万別である。

したがって、細長い独立したものというのは、国語辞典の域を出ず、技術的な字義の解釈となっていない。

例えば、別紙実公昭六一-一九六七七公報には、U状の板と内壁を利用して断面○状の流路を作り、これを管と同義の「パイプ」と称している.これは、「管」或いは「パイプ」が、必ずしも独立しているものだけを意味するものではないことを証明している。又、管の製作において、半円形のものを合わせて溶接し、円形に形成したり、コ状のものを合わせて四角形の管を製作したりすることは常用されており、管とは、あらかじめ独立しているものばかりではなく、二つの物体を溶接して管に構成することは多々ある.被上告人の三日月部分(三日月状流路)もタンクの内壁と巣板を利用して管を構成したものである。

以上の理由から、「管」は技術上の概念としては「細長く、独立したもの」のみを云うのではなく、又、仮に管の概念中に三日月部分(三日月状流路)が包含されないとしても両者は次の如き機能と作用効果を同一にしている。

〈1〉 循環パイプからタンク内に入った熱湯をタンクの長手方向に分配すること.

〈2〉 タンク内長手方向に分配した熱湯をタンク内に噴出させること。

〈3〉 タンク内の熱湯を長手方向において吸引集合し、これを循環パイプからタンク外に流出させること。

〈4〉 タンク内長手方向に熱湯を分配したり、長手方向から熱湯を吸引することによりタンク内全体に熱湯の流れを作り、この流れの攪拌混合作用(干渉作用)でタンク内全体の温度の均一化を図ること。

したがって、管と三日月部分(三日月状流路)は、技術的には同じことを行っているものということができ、これは均等若しくは単なる設計上の問題例えば独立の管で流路を作る場合はコストが高いが、壁と板で独立した管に代えると流路形成コストが安いという問題に過ぎず、これ以上の意味、理由はない。

又、たまたま本件考案の実施例の場合は断面円形の管であるが、これを断面三日月状管につけ替えてみると、被上告人の製品と同じ形状になる。

なお、被上告人の製品は巣板つまり平面から熱湯をタンク内に流出させているが管にも平面状のものがあり、又本件考案においては管の大きさ、形状、噴出孔、吸引孔の数、位置は特に限定するとは云っていないし、独立した実施例のような丸い管自体についての限定理由或いは効果は特に述べていない。

以上の理由から、管と三日月部分(三日月状流路)は同じものであり、三日月部分(三日月状流路)を管と称することが不適当であるとするなら、均等の技術手段と云うことができる。

(二)均等について

管と三日月部分(三日月状流路)が均等手段か否かについて、更に考察する。

(1) 均等の要件は次のとおりである.

〈1〉 機能の同一性

〈2〉 置換可能性(取替えてみても作用効果が同一)

〈3〉 容易推考性

(2) 管と三日月状流路についての均等性を検討する。

〈1〉 機能の同一性

a.管

循環パイプからタンク内に入った熱湯を一旦タンク内長手方向に流し、それから噴出孔を介してタンク内に向けて熱湯を噴出させるとともにタンク内長手方向全域から吸引孔を介して管内に熱湯を一旦吸引し、循環パイプを経由して循環ポンプに戻すためのもの.

b.三日月部分(三日月状流路)

循環パイプからタンク内に入った熱湯を一旦タンク内長手方向に流し、それから小孔を介してタンク内に熱湯を流出させるともにタンク内長手方向全域から小孔を介して三日月状流路内に熱湯を一旦吸引し、循環ポンプに戻すためのもの。

したがって、両者は循環パイプからタンク内に入った熱湯を一旦タンク内長手方向に流し、それからタンク内に向けて噴出させると共に全域から一旦小孔を介して吸引し、循環パイプを経由して循環ポンプに戻す点において機能的に全く同一であると見ることができる.

〈2〉 置換可能性

a.管

循環パイプからタンク内に流入する熱湯をタンク内に、一旦管内に入れ、直接タンク内には入れないので、流れがタンク内において循環パイプ出口部分に集中して局部的な高温域を作り、局部加熱を防ぎ、かつ長手方向に分配することによりタンク内全域に高温熱湯を行きわたらせる。

b.三日月部分(三日月状流路)

循環パイプの熱湯をタンク内において一旦この流路内に入れ、直接タンク内には入れないので、流れがタンク内において循環パイプの出口部分に集中して局部的な高温域を作り、局部加熱を防ぎ、かつ長手方向に分配することによりタンク内全域に高温熱湯を行きわたらせる。

循環パイプからタンク内に流入する熱湯をタンク内に直接流入させることなく、長手方向に分配する手段として、タンク内長手方向に管を沿わせて取り付け、この管で長手方向に分配流路を形成する手段と、タンクの内壁面を利用し、この内壁面に板を長手方向に沿わせて取り付け、内壁面と板で囲まれた三日月状の部分を分配流路に形成する手段は、流路形成手段に管を使用するか、板を使用するかの問題であり、これは設計において、管を取り付ける手数、コストと、板を取り付ける手数、コスト或いはタンク内の大きさ、循環水量等を考慮して選択される設計状の問題にすぎない。

つまり、独立した管で流路をつくるか、タンクの内壁を板で囲って流路をつくるかは、その他の例、たとえば排水溝をつくるのに既成のU字型のコンクリートブロツクを利用するか、平板3枚をU状に組み立てて排水溝をつくるかと同じように、極めて容易に転換して応用できる共通の課題解決手段(常用手段)である。

よって、両者は置換可能性を有すると見ることができる。

〈3〉 容易推考性

本件考案の出願当時の技術水準として、流路を形成するのに。独立した管を使用するか、板で囲って流路にするかというような問題は、双方とも常用手段であって、板で囲って水路つまりタンク内の長手方向に熱湯を流す(分配する)流路をつくることは、何人にも容易になし得ることであり、この間に技術的な困難性は全くない。

なお、本件考案における管には、熱湯を噴出する為の多数の噴出孔と吸引孔を設けることが条件である。しかし、この数は、多数と述べており、この数は、実施化出来る範囲内において上限はない.又、明細書には「本考案において噴出孔4及び吸引孔6の数はタンク1内の攪拌効果をみて決定される」と述べており、この数は設計上の問題と解釈すべきである。

一方、イ号の巣板5に設けられた小孔6も板面に多数設けてあり、この点において両者間に技術的な差異はない。

なお本考案を実施するに当り、昭和五〇年三月当時上告人は、被上告人の三日月部分(三日月状流路)に関する特許出願前であって本考案出願後直ちにタンク内の底部においてはパンチングした金属板を置いてこの下(タンクの壁との間)に三日月状の流路を作り、ここから熱湯を吸引していた事実がある(鎌倉ハム納入品、甲第一七号証、甲第一八号証参照)

これは吸引側だけとはいえ、管を三日月状の流路に設計して製品化したことに他ならず、三日月状の流路をタンク内に形成すること、つまり管をこの三日月状の流路に設計変更することは昭和五〇年三月当時当該技術の分野の者にとっては極めて容易なことであったことを示す証左である.

よって、管を被上告人のように巣板を使った三日月状流路に形成することは本件出願当時の技術水準でみると極めて容易なことであったものと云うことができる。

以上検討したように、本件考案でいうところの管とイ号の三日月状流路は、タンク内における位置関係が同一で、然もその機能、作用効果も同一であり、イ号のように管に代えて板で囲って流路を作ることは極めて容易な技術上の流路形成手段である。

管とタンクの内壁の一部を板で囲って作った三日月状流路とは、流路形態手段及びタンク内に熱湯を噴出させ、かつ吸引する手段として均等であると見ることができる。

(三)よって原判決が「イ号物件の三日月部分(三日月状流路)が本件考案の管と均等でない」とするのは審理不尽、理由不備と言わざるを得ない。

(民事訴訟法第三九四条、第三九五条一項六号)

七、以上のとおり原判決は違法であり原判決は破棄されるべきのものである。

以上

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